弁膜症

心臓には4つの部屋とそれぞれの出口に4つの弁(大動脈弁、僧帽弁、肺動脈弁、三尖弁)があります。いずれも心臓のポンプとしての機能を果たすために重要な役割を担っています。

それぞれの弁の役割とその病気について説明いたします。

 

大動脈弁

大動脈弁は左心室と大動脈の間にある弁で血液が左室に逆流するのを防いでいます。三枚の弁からなりすぐ近くには冠動脈の入口部が開いています。

大動脈弁の疾患
大動脈弁狭窄症 (AS)

以前はリウマチ性の大動脈弁狭窄が比較的若い方で多く見られましたが、近年は高齢者に多くみられる石灰化性の大動脈弁狭窄症が多くなっています。この他には二尖弁(通常の大動脈は三尖)に伴う大動脈い弁狭窄症が比較的若い年齢層で見られます。

正常の大動脈弁は弁口面積(血液が心臓から出ていく出口の広さ)が3.0-4.0cm²と言われておりますが、大動脈弁狭窄の方は軽度で(1.5cm²以上)、中等度で1.0-1.5 cm²、重症となると1.0cm²以下しかなくなります。この他重症度の目安として左室(心臓の中)と大動脈の圧較差をカテーテル検査や超音波(心エコー)で測定しますが重症になると圧較差が最大で 100mmHgを超えることもあります。

大動脈弁狭窄症の重症度
 
軽度
中等度
高度
連続波ドプラ法による最高血流速度(m/s)
<3.0
3.0-4.0
≧4.0
簡易ベルヌイ式による収縮期平均圧較差(mmHg)
<25
25-40
≧40
弁口面積(cm²)
>1.5
1.0-1.5
≦1.0
弁口面積係数(cm²/m²)
<0.6

(日本循環器学会 弁膜疾患の非薬物治療に関するガイドライン(2007年改訂版)より抜粋)

 

 

大動脈弁狭窄症は長年無症状で経過します。しかし弁の狭窄は進行することはあっても改善することはありません。

一旦、心不全などの重篤な症状が出た場合、突然死などで死亡されるまでの期間は短く、2‐3年以内に多くの方がなくなるといわれております。

大動脈弁閉鎖不全症

大動脈弁がうまく機能せず、閉鎖しても血液が大動脈から心臓に逆流する状態です。

症状は胸痛や呼吸困難などの心不全症状が主体となります。拡張期血圧(血圧の下の値)が低いこともこの疾患の特徴です。慢性的に進行し自覚症状に乏しいことから、聴診や心臓超音波検査で見つかることもよくあります。しかし感染性心内膜炎という弁が細菌によって破壊される病気では急激な症状の進行を認めることもあります。

治療を行わなかった場合、症状がなければ大動脈弁狭窄症と同様に長期にわたり問題ないことが多いです。しかし、症状が出た後は年に10%以上の方が死亡されると言われており、早期に手術することが望まれます。

特に左室が拡大してきている方は生命予後が不良となるため症状がなくとも早期の手術をお勧めしております。 人工弁には2種類の弁があります。機械弁と生体弁と呼ばれるものでそれぞれに特徴があります。

 

a. 機械弁

パイロライトカーボンなどの金属からできており、耐久性は非常に良いです。しかし血栓ができやすくワーファリンという血液が固まりにくくなる薬を飲み続ける必要があります。

 

b. 生体弁:

ウシやブタの生体組織を利用して作られており、血栓の心配は少ないのですが耐久性は低く10~20年で壊れて再手術が必要となることがあります。

 

それぞれの弁の利点・欠点を考え、患者さんの年齢、心臓の状態、合併症などを考慮して選択されます。

僧帽弁の疾患

僧帽弁は左房と左心室の間にある弁で、前尖と後尖という2枚の弁からなります。左心室圧(血圧の上の値)を直接支えるため、心臓の4つの弁のうち一番負担がかかる弁です。

僧帽弁狭窄症

近年減少してきていますが、ほとんどの場合リウマチ熱が原因と考えられます。弁口面積が1.5cm²以下(正常4~6cm²)となって、動悸、息切れなどの症状が出現します。

また、心房細動を合併し、左房内に血栓ができて、これが脳塞栓症を起すことがあります。 手術は交連切開術あるいは人工弁置換術が行われます。

僧帽弁閉鎖不全症(逆流)

急激に発症した場合(腱索断裂、感染性心内膜炎など)では、心不全(息切れ、呼吸困難)などの症状が急に起こりますが、慢性に経過する僧帽弁閉鎖不全症では自覚症状に乏しいことがあります。しかし一般的にこの病気を放置しておくと 心臓の機能低下や脳梗塞などで生活に支障をきたし、突然死を起す確率が高くなると言われています。

このため症状が無くとも高度の弁逆流がある場合は、心エコー検査で左室駆出率60%以下または左室収縮末期径40mm以上(もしくはその両方)あれば手術をした方がいいと言われております。

この他にも不整脈(心房細動)や肺高血圧症が指摘された場合も手術が勧められます。

 

※I→IVの順で重症化。左室に入れた造影剤がIでは少し、IIでは左房全体が染まる程度に、IIIは左房と左室が同じくらいに染まり、IVでは左房が左室より濃く染まっている。

 

手術適応は近年変化してきています。この背景には近年の手術成績の向上もあります。

10年以上前では僧帽弁手術の多くが弁置換を行っていたのに対して、近年では弁形成の良好な長期成績が明らかになってきた事や、手術法が多く開発されてきたこと等から、国内でも弁形成が半分以上の症例に行われるようになってきています。しかしこの弁形成も全例に行えるわけではなく、施設によっても弁形成の施行率は違っています。当科では僧帽弁形成にも早くから積極的に取り組み高い弁形成率を上げています。

2008年以降では変性の僧帽弁逆流(感染性心内膜炎を除く)では全例100%にこの弁形成を行うことができました。この高い弁形成率は、当科で開発した心拍動下僧帽弁形成術という新しい手術法を用いることにより実現できたと言えます。心拍動下で弁形成を行った場合、通常の心臓を止めたまま行う弁形成術と比べ、自然な弁の状態(弁は心臓の動きとともに形を変える)を観察できるようになります。

つまり止まった状態の心臓を見て逆流の評価を行うより、動いた状態の心臓を見て逆流の評価を行ったほうがより自然で正しい形に弁を形作る事が出来ると言えます。

 

弁形成を行った場合、弁置換と比べ一般的に予後は良好です。服薬も最小限に減らすことができ、通常の社会生活には全く支障がなくなることも多いのです。

 

一方、人工弁にも機械弁と生体弁の2種類があります。大動脈弁の項で説明したようにそれぞれの利点と欠点があります。僧帽弁に関しては特に生体弁が大動脈弁よりやや早く壊れやすいという特徴があります。